医療や介護の現場では、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)がそれぞれ専門的な役割を担っています。
これらの職種はチームの中で対等な存在であり、資格そのものに上下関係はありません。
しかし、現場で働く看護師や他職種から見て、理学療法士が「偉そう」と感じられることが少なくありません。
例えば、患者さんから「先生」と呼ばれる理学療法士がいる一方、作業療法士や言語聴覚士は控えめな印象を持たれることが多いです。
では、なぜこのような印象が生まれるのでしょうか?
この記事では、看護師としての視点からその背景を掘り下げ、問題点と解決策を考えてみます。
「先生」と呼ばれる理学療法士の立場
理学療法士が「偉そう」と思われる理由の一つは、患者さんから「先生」と呼ばれる場面が多いことです。
医療現場では、理学療法士は患者さんに直接接して身体機能の改善をサポートします。
このため、患者さんやその家族から「治療をしてくれる専門家」と見られ、医師と似たような扱いを受けることがあります。
一方で、作業療法士や言語聴覚士はその役割が目に見えにくいこともあり、「リハビリの一環」という認識で捉えられることが多いです。
この違いが「理学療法士=偉い」といったイメージを助長しているのではないでしょうか。
もちろん、全ての理学療法士が「先生」と呼ばれることを喜んでいるわけではありません。
実際には、理学療法士自身が患者さんに「先生と呼ばないでください」とお願いするケースもあります。
ただ、それでも「理学療法士=偉そう」というイメージが消えないのは、患者や家族の誤解だけでなく、職場での振る舞いにも一因があるかもしれません。
理学療法士と作業療法士の違いと社会的イメージ
理学療法士と作業療法士はどちらもリハビリテーションに欠かせない職種ですが、その仕事内容には違いがあります。
理学療法士(PT):主に患者の身体機能、特に運動機能の回復や改善を目指します。歩行訓練、ストレッチ、筋力強化などが中心です。
言語聴覚士(ST):医師の指示のもと、言語・音声・嚥下・聴覚に関する機能に困難がある患者に対して、専門的な知識や手技を用いたサポートをします。
作業療法士(OT):日常生活動作(ADL)の改善を目標とし、患者が生活に必要な動作を再びできるよう支援します。食事や着替え、家事の練習などが含まれます。
理学療法士は「身体を動かす訓練」という分かりやすい内容を担当するため、患者さんからの感謝の声が直接届きやすい一方、作業療法士はその活動内容が一般的に理解されにくい傾向があります。
この結果、理学療法士の方が社会的に目立ちやすく、「リハビリ=理学療法士」と誤解されることも多いのです。
職場での振る舞いと体育会系文化
理学療法士には、体育会系の気質を持つ人が多いというイメージがあります。
これは、その仕事の性質が体力的な部分に関わるためかもしれません。
例えば、患者さんをサポートしながらの歩行訓練や、筋力強化のサポートには、エネルギッシュな対応が求められる場面が多々あります。
この「体育会系」の気質が、時として周囲に「偉そう」「押しが強い」という印象を与えてしまうことがあります。
一方で、作業療法士は患者に寄り添い、繊細なケアを行うことが求められるため、控えめで穏やかな印象を持たれることが多いです。
看護師として現場を見ていると、リハビリスタッフ間の性格の違いがそのまま力関係のように見えることもあります。
実際にはどちらも重要な役割を担っていますが、この「性格の差」が上下関係を感じさせる原因の一つと言えるでしょう。
リーダー職に就くのは理学療法士が多い理由
病院や介護施設では、リハビリ部門のリーダーや管理職に理学療法士が選ばれることが多いです。その理由として、次のような要因が挙げられます。
- 理学療法士の数が多い
理学療法士はリハビリ職種の中でも人数が多く、現場での存在感が強いです。数が多い分、リーダー職への登用も自然と多くなる傾向があります。
- 社会的な認知度が高い
「リハビリ=理学療法士」というイメージが根強いため、管理職に就く際にも患者や家族、施設側の理解を得やすいです。
- 役割のわかりやすさ
理学療法士の仕事は「歩けるようになる」「動けるようになる」といった分かりやすい成果があり、それがリーダーシップを発揮しやすい環境を作っています。
一方で、作業療法士や言語聴覚士がリーダー職に就くケースもありますが、少数派であるため目立ちにくいのが現状です。
看護師から見たリハビリ職種間の摩擦
看護師の立場から見ると、リハビリ職種間の上下関係や摩擦がチーム医療に影響を与える場面もあります。
例えば、理学療法士が作業療法士や言語聴覚士の意見を軽視してしまうと、患者のケアに必要な情報共有がスムーズに行えなくなる可能性があります。
また、作業療法士や言語聴覚士が自分たちの専門性をもっとアピールすることで、対等な関係を築く手助けになるでしょう。
看護師としても、リハビリ職種の役割を理解し、互いに尊重し合う姿勢を持つことが重要です。
患者や家族からの誤解が生む課題
患者さんやその家族から見た「リハビリ」のイメージは、理学療法士に偏りがちです。
その背景には、理学療法士の仕事が目に見えやすい点や、過去のリハビリ職種の歴史が関係しています。
たとえば、作業療法士が行う日常生活動作(ADL)の訓練は、患者さんの長期的な回復に重要ですが、すぐに効果が現れるわけではありません。
そのため、家族が「目立たない仕事」と感じてしまうことがあります。
言語聴覚士も同様で、コミュニケーション障害や嚥下障害のリハビリは専門性が高く評価されるべきですが、一般的な認知度はまだ低いのが現状です。
まとめ
理学療法士が「偉そう」と思われる現象には、社会的イメージ、現場での力関係、性格的な違いなど、さまざまな要因が絡んでいます。
しかし、本来これらの職種は患者さんの回復を目指す同じチームの一員であり、上下関係を作る必要はありません。
看護師としても、各職種の専門性を理解し、連携を深めることが重要です。
また、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が互いを尊重し、平等な関係を築くことで、患者さんにとって最良のケアを提供できるはずです。
どの職種が「偉い」ではなく、「どのように貢献できるか」を考えることが、今後の医療現場に求められる姿勢ではないでしょうか。