本記事をご覧の皆さんは「看護師の夜勤時間は月72時間以内にすること」を定めた72時間ルールをご存知でしょうか?
普段の夜勤業務を行なっていて、毎月組まれていたシフトが、72時間以内に抑えられていたことを理解していた方は少ないと思います。
本記事ではこの72時間ルールがいつ、どのようにして作られたのか、どうして72時間なのかという部分に焦点を当て解説していきたいと思います。
看護師の夜勤72時間ルールの計算方法
72時間ルールの計算方法は、「夜勤をする看護師全員の夜勤時間の合計」を算出し、そこから「看護師の人数」で割ります。
この時に出た数字が月平均夜勤時間でもある72時間を下回っていれば良いというものです。
また夜勤をする看護師にも決まりがあります。
これまで月の夜勤時間が16時間以下の看護師は、この計算方法から除外されていました。
しかし2016年の診療報酬改定により、16時間という基準が8時間に変更され、1回以上夜勤を行った看護師は、72時間ルールの対象に含まれることになったのです。
これはつまり、月の夜勤回数が1回の看護師でも、逆に夜勤回数が7回、8回と多い看護師でも看護師の人数としては数えられてしまうということです。
実際に以下の例を用いて計算してみましょう。
・看護師Aさん:夜勤回数4回、夜勤時間64時間
・看護師Bさん:夜勤回数3回、夜勤時間48時間
・看護師Cさん:夜勤回数5回、夜勤時間80時間
・看護師Dさん:夜勤回数5回、夜勤時間80時間
・看護師Eさん:夜勤回数3回、夜勤時間48時間
・看護師Fさん:夜勤回数1回、夜勤時間16時間
全員の夜勤時間を計算すると、
64+48+80+80+48+16=336(時間)
看護師の人数は6人なので、
336(時間)÷6(人)= 56
月の夜勤平均時間は約56時間のため、この例の場合は72時間ルールを守っている病棟だと判断できます。
ただし夜勤回数や時間は人によりばらつきがあるため、それぞれにかかる負担は変わってきますね。
シフト表さえあれば誰でも計算可能なので、ぜひ皆さんも確認してみてください。
そもそも看護師夜勤の72時間ルールってなに?
72時間ルールは、夜勤による看護師の負担を軽減させる目的で、2006年度の診療報酬改定で作られました。
平均夜勤時間が72時間を超えている場合、病院に支払われる入院基本料が減らされるため、病院側としても必ず守らなくてはなりません。
ではなぜ72時間なのでしょうか?
実はこの72時間というのは、明確な理由があったわけではないようです。
元々日本看護協会が支持していたのは「月の夜勤時間は64時間以内に」というものでした。
ただし夜勤の時間が短くなればなるほど、多くの夜勤ができる人員が必要となってきます。
そのため看護師不足の病院にとってはかなり難しい条件だったようです。
そこで日本看護協会と病院側の折衷案として、「月の夜勤時間は72時間」でまとまったという背景がありました。
ただし診療報酬改定のたびに、この72時間ルールをめぐって、日本看護協会と病院側は何度も衝突しています。
現在は平均夜勤時間の計算方法が変更され、1ヶ月の夜勤時間が長くなった看護師が増えるなど、一部ルールが変わりました。
そのため事実上のルール緩和だとされていますが、日本看護協会としてもここは譲れないところだと考え、72時間のエビデンス調査に乗り出しているようです。
看護師側としても、夜勤時間が増えることでさまざまなデメリットがあります。
私個人としても、しっかりと守ってほしいラインでもありますね。
夜勤72時間ルールを守っている病院はどれくらい?
前章で72時間ルールについて解説してきました。
では実際のところ、72時間ルールを守っている病院はどれくらいあるのでしょうか?
2016年10月に中央社会保険医療協議会により夜勤時間数別の病棟勤務の看護職員数が調査されました。
この調査によると、72時間以上の夜勤業務に従事している看護師は37.3%となっており、約4割もの看護師が72時間以上の夜勤勤務をしていることがわかります。
参考 中央社会保険医療協議会 夜勤時間数別の病棟勤務の看護職員数より
私が勤めていた病院でも、夜勤は月に4〜5回程度で組まれ、72時間以内だった看護師は少なかった印象です。
新人の看護師より、特に中堅の看護師は夜勤回数が多くなっていました。
夜勤が72時間を超えるとどんな影響が出る?
夜勤時間が多くなることで、さまざまな身体への影響が出てきます。
日本看護協会が発表している資料によると、夜勤が72時間を超えてくると「頭が重い」「全身がだるい」「ちょっとしたことが思い出せない」といった多くの疲労症状が…。
このような疲労症状が続くことで、健康面の被害だけでなく、医療安全の面でも悪影響が出てきますね。
疲れにより注意力が散漫になったり、手元が狂ったりといったことは往々にしてあることです。
思いも寄らないインシデントやアクシデントを起こさないよう、72時間を超える夜勤には注意が必要となってきます。
夜勤時間が72時間を超えると離職率が高まる?
月の夜勤時間が72時間を超えると、さまざまな疲労症状が出ることをご紹介しました。
しかしながら、長時間の夜勤の影響は健康面だけではありません。
日本看護協会が2016年に発表した情報によると、夜勤時間の長い看護職員が多い病院ほど離職率が高い傾向になることがわかりました。
離職率 | |
夜勤72時間10%未満 | 9.1% |
夜勤72時間50%以上 | 11.9% |
参考 日本看護協会 72時間超の看護職員の割合別にみた離職率 より
夜勤時間と離職率の関係性として、夜勤時間が72時間を超える職員が10%未満の施設では離職率が9.1%だったのに対し、72時間を超える職員が50%以上になってくると、離職率は11.9%と高くなっています。
離職率に影響が出てくる要因として、「身体的に辛い」ということが考えられます。
長時間の夜勤による疲労症状はもちろんのこと、勤務を終えた後でも疲れが残った状態です。
「休みの日はとにかく寝ている」「仕事を終えた後にドッと疲れが…」といった声が上がっており、せっかくの休日でも仕事の疲れからか、有意義に使えてない看護師が多いことがわかりますね。
まとめ
夜勤業務についている看護師の72時間ルールについて、お話していきました。
実際には72時間ルールを無視している病院も無いわけではありません。
日本看護協会の方でも現行の夜勤時間よりもさらに短くし、夜勤を行う看護職員全てが平等になるように取り組んでいます。
今後の動向を注視していきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。