看護師としての新人時代を振り返ると、「わからないことあったら聞いてね」という言葉が記憶に残っています。
その言葉を聞いた当初は、「先輩が優しい」と感じたものです。
しかし、現実はその優しさがいつも本心ではないことに気づかされる出来事がたくさんありました。
特に、質問をした際の対応によって、安心感が一気に崩れることがよくありました。
新人看護師にとって、現場での一つ一つの言葉や対応が大きな意味を持ちます。
それは、業務の正確さだけではなく、精神的な成長やモチベーションにも直結するからです。
この文章では、私自身が体験したエピソードを深く掘り下げつつ、新人時代の心の葛藤や、そこから学んだ教訓について詳しく解説していきます。
知識を吸収する「大変さ」を軽く見ないでほしい
看護師としての仕事は膨大な知識とスキルが必要です。
それに加え、医療現場では患者さんの状態に合わせて即座に対応しなければならない状況も少なくありません。
そのため、新人時代には覚えるべきことが山のように積み重なっています。
例えば、薬剤の種類や投与量、機器の使い方、患者さんの状態を把握する観察スキルなど、どれもが「命」に関わる大切な内容。
一度教わっただけで全てを完璧に覚えるのは、不可能に近いと言っても過言ではありません。
にもかかわらず、「どうしてこんなことも覚えてないの?」と詰められると、次第に「私はダメな人間なんだ」と思い込むようになってしまいます。
私自身、新人時代に何度も同じ質問をしてしまったことがあります。
そのたびに、先輩からの冷たい視線や「また?」という反応に萎縮し、次第に質問することが怖くなってしまいました。
それが仕事の効率に悪影響を与えることに気づきながらも、恐怖心が勝り、質問を飲み込むようになったのです。
「わからないことを聞けない環境」の危険性
質問をためらうようになると、医療現場では非常に危険な事態を招くことがあります。
医療行為にミスは許されませんが、質問をせずに進めることでそのリスクが高まってしまうのです。
新人の私は、「聞けない」という状況が仕事の質にどれほど影響するかを痛感しました。
あるとき、投薬手順について曖昧な部分がありました。
本来ならその場で先輩に確認すべきでしたが、「また怒られるかも」と思い、確認をためらってしまいました。
その結果、誤った手順で作業を進めてしまい、先輩に指摘されたときにはすでに手遅れ。
患者さんには影響がなかったものの、私は自分の判断ミスに深く落ち込みました。
そして「やっぱり私はダメな人間だ」とさらに自信を失うという悪循環に陥ったのです。
愚痴に隠された「先輩側の本音」
今だから理解できることですが、「わからないことあったら聞いてね」と言いながら冷たく突き放す先輩たちには、それなりの理由があったのだと思います。
現場の忙しさや業務の負担、さらに新人指導のプレッシャーが重なり、余裕がなくなってしまうのです。
ある先輩は、「正直、後輩に構っている余裕なんてない」と率直に話してくれました。
「教えたいけど、こっちもミスが許されない環境で自分のことで精一杯なんだよね」と。
その言葉を聞いたとき、先輩たちも同じようにプレッシャーの中で働いているのだと感じました。
しかし、だからといって、冷たい態度をとる理由にはならないと思います。
質問を受け入れる「余裕」の作り方
私が先輩看護師として後輩と接するようになってからは、意識的に「質問をしやすい空気」を作るようにしています。
特に意識しているのは、後輩が何度同じことを質問しても、否定的な言葉を使わないことです。
例えば、「前も言ったよね?」という代わりに、「覚えにくいところだよね。一緒にもう一度やってみようか」と提案するようにしています。
また、忙しいときには「少し落ち着いたら一緒に確認しよう」と伝え、後回しにしても質問を必ず受け止めるようにしています。
後輩が質問をしやすい環境を作ることは、結果的に業務の効率化やミスの減少につながることを実感しています。
「質問は成長のチャンス」という考えを根付かせることで、後輩自身が積極的に学びに向き合えるようになるのです。
実際の医療現場で役立つ例
ここで、具体的なシチュエーションを挙げてみましょう。
例えば、新人看護師が薬の計算を間違えた場合、怒るのではなく、「どうして間違えたのか」を一緒に考えることが重要です。
その過程で、「ここが分かりにくかったんだね」と理解のポイントを見つけることで、同じミスを繰り返さないようにすることができます。
また、点滴の管理について質問された際には、忙しい中でも簡単にメモを残して渡すなど、新人が復習しやすい工夫をしています。
「質問した内容が書き残されていると安心する」という後輩の声もあり、こうした小さな配慮が信頼関係を築くきっかけになるのです。
自分を責めないで
新人時代の私は、自分の能力不足を常に責めていました。
しかし、今振り返ると、看護師という職業が特にハードルの高いものであることをもっと理解しておくべきだったと思います。
新人がすべてを完璧にこなせるはずがないのです。
むしろ、失敗や質問を通じて少しずつ成長することが大切だと、今ならわかります。
ですから、後輩たちには「失敗しても大丈夫」と伝えるようにしています。その一言がどれほど救いになるか、自分自身の経験からよく知っているからです。
まとめ
正直なところ、後輩指導には疲れることも多いです。
特に、自分自身が疲れているときや忙しいときに同じ質問をされると、「もういい加減覚えてほしいな…」と思ってしまいます。
でも、それが看護師としての「成長を支える責任」であると自分に言い聞かせています。
自分が新人時代に受けた冷たい態度を繰り返さないためにも、後輩たちには安心して働ける環境を提供したいと心から願っています。
そして、看護師という厳しい仕事の中でも、お互いに支え合えるチームを作ることが最終的な目標です。
看護師として働く上で、教えることもまた大切な学びの一つです。
日々の忙しさに追われつつも、後輩たちの成長を支えることで、自分自身もまた成長していけるのだと思います。